公開日: 2025年12月13日(土)


執筆:田上恭由(たがみやすゆき)
株式会社ワイコム・パブリッシングシステムズ 代表取締役 上級ウェブ解析士
西南学院大学卒。記者を経て中古車情報誌編集部で、世界初となるデジカメ画像利用の誌面完全自動制作システムを開発。平成8年に創業し、同システムは情報誌「カッチャオ」の成長を支えた。現在はウェブ集客支援へ移行し、構築700サイト・運営支援130社超の実績を持つ。近年は生成AIによる業務改革支援や研修開発に注力。講演・セミナー実績多数。「チームがみポンランニングクラブ」会長。
その「100万円の箱」、今はただの漬物石かもしれません。
福岡の経営者の皆様、土曜日の朝いかがお過ごしでしょうか。
「すべてのパソコンをただの『窓』にせよ!」プロジェクト、5日目です。
前回は、事務機屋さんがよく勧めてくる赤い箱や銀色の箱、「UTM(統合脅威管理)」の機能について解説しました。
「なるほど、インターネットの番犬か。なら安心だ」と思われたかもしれません。
しかし、今日はその「裏側」をお話しします。
これは、高額なリース契約を取ってきた営業マンにとっては、あまり聞かれたくない「不都合な真実」です。
結論から言います。
もし御社が、今後データをクラウド(Google Workspaceなど)に移していくなら、
その100万円のUTMは、もはや「無用の長物」になる可能性が高いです。
1. 通信が「暗号化」されて、番犬は目隠し状態?
一昔前、社員がインターネットを見る時の通信は「裸」の状態でした。
だから、会社の入口にいるUTM(番犬)は、「あ、これは怪しいサイトだ」「これはウイルスだ」と中身を見て、ブロックすることができました。
しかし、今はどうでしょう?
Googleも、銀行も、主要なWebサイトも、URLが https:// で始まっていますよね?
これは「SSL/TLS」といって、通信がガチガチに「暗号化」されている証拠です。
暗号化されると、通信の中身は「意味不明な文字列」になります。
つまり、今のUTMは、中身が見えない「目隠し状態」で立っているだけのケースが多いのです。
(※SSLインスペクションという中身を無理やり見る機能もありますが、高価で設定が難しく、中小企業の現場ではほとんど使われていません)
「中身が見えないのに、何を守っているの?」
……良い質問です。実は、あまり守れていないのです。
2. そもそも「守るべき金庫」が空っぽになる
かつてUTMが必要だった最大の理由は、社内に「ファイルサーバー(NAS)」や「顧客データ」があったからです。
「社内にある宝」を、外敵から守るために高い壁が必要でした。
しかし、この連載のテーマである「パソコンを窓にする(データをクラウドに上げる)」を実行すると、どうなりますか?
社内のサーバーは撤去されます。パソコンの中も空っぽです。
社内には、もう泥棒が欲しがる「データ」は存在しません。
「空っぽの金庫」を守るために、警備員を雇い続けますか?
泥棒からすれば、何も入っていないオフィスに高いセキュリティがかかっていても、「どうぞご勝手に」という話です。
3. なぜ彼らは「箱」を売り続けるのか?
「役に立たないなら、なぜ営業マンはあんなに熱心に勧めてくるんだ?」
答えはシンプル、「儲かるから」です。
Google Workspaceのようなクラウドサービスは、私たち販売店に入る利益は微々たるものです。
しかし、UTMのような「ハードウェア」を5年、7年のリースで契約してもらえれば、一度に大きな売上が立ちます。
「クラウドは危険ですよ! 手元で守りましょう!」
彼らがそう言うのは、御社のセキュリティのためというより、自分たちの「リースの売上」を守るためかもしれません。
【まとめ】 「戦艦大和」を作るのはやめよう
これからの時代に、社内に重厚なセキュリティ機器(UTM)を置くのは、ミサイルが飛び交う現代戦に、巨大な「戦艦大和」を作って挑むようなものです。
デカくて、高くて、動きが遅い。
これからは、「クラウド」という、姿が見えず、どこにでも移動できる「ステルス戦闘機」の時代です。
リース契約の更新月が近づいている社長。
「とりあえず更新」のハンコを押す前に、一度立ち止まってください。
「データがない社内に、本当にこの箱は必要なのか?」
さて次回は、じゃあその大切なデータを預ける「クラウド(Google)」は本当に安全なのか?
「銀行の貸金庫より安全な、Googleの金庫の話」をします。
「見えないから怖い」という社長の常識を、ひっくり返します。




