
~ GoogleWorkspaceですべてのパソコンをただの窓にする手ぶらITプロジェクト ~
執筆:2025年12月21日(日)
こんにちは。
前回は「2段階認証すら突破される恐怖」についてお話ししました。今回は、その対策となる「最強の鍵」の話ですが、その前に、私が以前出会ったあるIT業界の専門家の話をさせてください。
数年前の「セキュリティ専門家」の教え
数年前、紹介されたあるセキュリティ専門家の方がいました。その方は大手企業の出身で、指導実績も豊富で、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)や個人情報保護のスペシャリストとして紹介されました。
しかし、今振り返ると、彼のアドバイスには時代に合わない点がありました。
先生はこう言ったのです。
「スマートフォンは危ない。私はガラケーしか使いません」
当時は私も勉強不足で「なるほど、専門家が言うならそうなのか」と納得しかけました。
ですが、セキュリティを深く学んだ今なら言えます。「そのアドバイスは、現在の状況には適していない」と。
なぜなら、現在のIT業界におけるセキュリティでは、世界標準となっている認証方式「FIDO(ファイド)」は、ガラケーでは利用できないからです。ガラケーには生体認証機能がないため、FIDO2(パスキー)認証に対応できません。
なぜ「スマホ」が最強の鍵なのか?
私たちが目指す「パソコンをただの窓にする」プロジェクトにおいて、最も重要なのは認証です。
そこで採用すべき世界標準が、スマホを使った「パスキー(FIDO認証)」です。
これは以下の2つが揃って初めて機能します。
- 所持認証: そのスマホを持っていること
- 生体認証: そのスマホで顔や指紋を認証すること
この2つが組み合わさることで、パスワード入力も不要になり、フィッシングサイトでの詐欺も防げます。
生体認証機能のないガラケーでは、この仕組みを使うことができません。サイバー攻撃が高度化した現在、最新の認証技術を利用できないことは、セキュリティ上の大きな制約となります。
日本企業が狙われている現実
ここで厳しい現実をお話しします。
なぜ今、日本企業や個人がこれほど狙われているのか?
実際に、2025年には以下のような被害が発生しています:
- アサヒグループホールディングス:2025年9月にランサムウェア攻撃を受け、受注・出荷システムが約2ヶ月停止
- アスクル:2025年10月にランサムウェア攻撃で倉庫管理システムが稼働停止、配送業務に影響
- 2025年上半期のセキュリティインシデント:国内で1,027件を記録し、過去最多を更新
★サイバーセキュリティ・情報漏洩ニュース
https://cybersecurity-jp.com/news
これらの被害が示すのは、従来の対策だけでは不十分という現実です。
世界では、パスワードに依存しない認証方式である「FIDO」が標準として普及しています。日本でもこの流れは始まっていますが、特にビジネスバンキングなどの分野では、まだ電子証明書方式が主流です。
ビジネスバンキングの課題と変化
多くの日本の銀行のビジネスバンキングでは、PCに紐づけた電子証明書による認証が使われています。これには以下の課題があります:
- PCを持ち歩けない経営者が出張中に決済できない
- 権限管理が複雑になる
- 柔軟な働き方への対応が困難
ただし、変化も起きています:
- GMOあおぞらネット銀行が2025年にFIDO2(パスキー)対応を発表
- 三井住友信託銀行も新インターネットバンキングアプリでFIDO認証を採用予定
日本の金融機関も、徐々に世界標準の認証方式へと移行しつつあります。この流れは今後加速すると予想されます。
私のセキュリティの学び方
「じゃあ、お前はどこでそれを学んだんだ?」
そう思われるかもしれません。正直に言います。私の会社は、日本国標準の「Pマーク」認証だけですし、ISO27001認証もまだ取得していません。セキュリティを本格的に重要だと考え始めたのは、Google Workspaceの導入を検討し始めた2024年秋頃からです。
私のセキュリティの先生は「AI(Gemini)」です。
ネットでセキュリティの情報を探すと、専門用語だらけで理解が難しい情報が山ほど出てきます。でも、AIに聞けば、それらを整理し、「今の世界標準(ベストプラクティス)は何か」を教えてくれます。
もちろん、AIにも間違いはあります(ハルシネーション)。しかし、最新の世界中の情報にアクセスでき、わかりやすく説明してくれるAIは、学習ツールとして非常に有用です。
重要なのは、情報源を鵜呑みにせず、複数の情報を照らし合わせ、自分で判断することです。
お金をかけずに、世界標準で守る
そしてもう一つ。声を大にして言いたいことがあります。
「基本的なセキュリティ対策に、高額な費用は必要ない」
もちろん、大企業が管理体制(ガバナンス)として投資するのは重要です。
しかし、小規模企業や個人事業主が守るべきは、現在保有しているファイルそのものと、顧客からの信用です。お金をかけずにできることはたくさんあります。
- Googleの「パスキー」:無料(個人版Gmailアカウントでも使えます)
- Windowsの「顔認証(Windows Hello)」:無料(対応カメラが必要)
- AIで最新情報を学ぶ:無料(Geminiは無料版でも十分有用)
1円も払わなくても、今すぐできることがたくさんあるのです。
今日のアクション:スマホを「会社の鍵」にする
1. 個人スマホの活用について
「仕事に個人のスマホを使うなんて」と躊躇する方もいるでしょう。
※ただし、これは会社のセキュリティポリシーによって判断が分かれます
- メリット:常に携帯しているため紛失リスクが低い、一人一台で管理が明確
- デメリット:私物との混在、紛失時の対応、従業員の負担
導入する場合は、従業員の理解を得ること、明確なルールを設けることが重要です。
2. パスキー設定の実施
Googleアカウントなどでパスキーを設定し、スマホでログインできるようにします。これで、フィッシング攻撃のリスクを大幅に軽減できます。
3. 情報源の見直し
権威や肩書ではなく、「現在の世界標準かどうか」で情報を判断してください。
わからなければAIに「現在の世界標準のセキュリティ対策は?」と聞き、複数の情報源で確認する習慣をつけましょう。
自分の財産、会社のデータは自分で守る
国やデジタル庁の動きを待つだけでは不十分です。
日本の金融機関のビジネスバンキングも、徐々にではありますがFIDO認証への対応を始めています。この流れに乗り遅れないよう、私たち自身が最新の情報を学び、実践していくことが重要です。
社員も、会社のデータを個人認証で守る。それも、お金をかけずに、世界標準のツールを使って。
ぜひ、これを機会に世界の標準に則って、悪意のある攻撃から自分や自社を守りましょう。
次回は、いよいよ年末。この「タダで最強の環境」を整えた上で行う、究極のデジタル大掃除についてお話しします。
よくある質問(FAQ)
Q1. パスキーとは何ですか?従来のパスワードと何が違うのですか?
A: パスキーは、FIDO2という国際標準規格に基づいた認証方式で、パスワードの代わりにスマートフォンの生体認証(指紋・顔認証)や画面ロックを使ってログインする仕組みです。
従来のパスワードとの違い:
- パスワードを覚える必要がない
- フィッシングサイトで盗まれるリスクがない
- サーバーにパスワードが保存されないため、情報漏洩の被害を受けない
- ログイン速度が約40%向上
Q2. 個人のGmailアカウントでパスキーは本当に無料で使えますか?
A: はい、完全無料です。2023年10月から、個人のGoogleアカウントでパスキーがデフォルトオプションとして提供されています。追加料金は一切かかりません。
設定方法:
- https://myaccount.google.com/signinoptions/passkeys にアクセス
- 「パスキーを作成する」をクリック
- 画面の指示に従って、デバイスの生体認証を設定
Q3. ガラケーでもセキュリティ対策はできますか?
A: 基本的なセキュリティ対策(パスワード管理、怪しいメールを開かないなど)は可能ですが、最新のFIDO認証(パスキー)には対応できません。
理由:ガラケーには生体認証機能(指紋認証・顔認証)が搭載されていないため、パスキー認証に必要な要件を満たせないからです。
セキュリティを重視する場合は、生体認証機能を持つスマートフォンへの移行を検討することをお勧めします。
Q4. 仕事で個人のスマホを使うのは安全ですか?会社から支給されたスマホでないと危険では?
A: 会社のセキュリティポリシーによって判断が異なります。
メリット:
- 常に携帯しているため紛失リスクが低い
- 一人一台で管理が明確
- 使い慣れた端末で操作がスムーズ
注意点:
- 会社のセキュリティポリシーに従う必要がある
- 紛失時の対応手順を明確にする
- 私物と業務データの分離方法を決める
- 従業員の同意と理解を得る
導入前に、必ず社内で方針を協議してください。多くの企業では、認証だけを個人スマホで行い、業務データは会社のシステム内に保存する方式を採用しています。
Q5. Windows Helloの顔認証は本当に無料ですか?何か特別な機器が必要ですか?
A: Windows Hello自体はWindows 10/11に標準搭載されており無料です。ただし、利用には以下のハードウェアが必要です:
顔認証の場合:
- IRカメラ(赤外線カメラ)が搭載されたデバイス
- 最近のノートPCには搭載されているものも多い
- デスクトップPCの場合、外付けのIRカメラが必要(数千円~)
指紋認証の場合:
- 指紋リーダーが搭載されたデバイス
- 外付けの指紋リーダー(数千円~)
確認方法: 設定 → アカウント → サインインオプション で「顔認証(Windows Hello)」または「指紋認証」の項目が表示されるか確認してください。
Q6. 日本の銀行はパスキーに対応していないのですか?
A: 従来は電子証明書方式が主流でしたが、状況は変化しています。
対応済み・対応予定の金融機関:
- GMOあおぞらネット銀行:2025年冬からFIDO2(パスキー)対応開始予定
- 三井住友信託銀行:新インターネットバンキングアプリでFIDO認証採用予定
- SBI証券:パスキー認証を2025年秋頃に導入予定
今後、金融庁の監督指針改正により、フィッシング耐性のある認証手段(パスキーなど)の導入が加速すると予想されます。
Q7. AIでセキュリティを学ぶのは安全ですか?AIの情報は信頼できますか?
A: AIは学習ツールとして有用ですが、盲信は禁物です。
推奨する使い方:
- AIに「現在の世界標準は?」と質問して概要を掴む
- 得られた情報を複数の公式ソースで確認する
- 公式ドキュメント、信頼できる技術サイト、政府機関の情報と照合する
- 重要な判断は、AIの回答だけでなく専門家にも相談する
注意点:
- AIは間違った情報(ハルシネーション)を生成することがある
- 最新情報でも、すべてが正確とは限らない
- セキュリティの設定は、理解した上で実施する
Q8. パスキーを設定したスマホを紛失したらどうなりますか?
A: パスキーには紛失対策が組み込まれています。
対処方法:
- バックアップコードを事前に保存しておく(Googleアカウント設定で取得可能)
- 複数のデバイスにパスキーを登録しておく
- 紛失したら、別のデバイスやバックアップコードでログインし、紛失デバイスのパスキーを削除
セキュリティ面:
- スマホ自体にロック(PIN・生体認証)がかかっている
- 拾った第三者は、あなたの生体情報(指紋・顔)がないためログインできない
- パスワードと違い、見られて盗まれるリスクがない
Q9. 小規模企業でもすぐに始められるセキュリティ対策は何ですか?
A: お金をかけずに今日から始められる対策:
- 全従業員のGoogleアカウントでパスキーを有効化(無料・30分程度)
- Windows Helloの設定(対応機器があれば無料・10分程度)
- 定期的なセキュリティ意識向上
- フィッシングメールの見分け方を共有
- パスワードの使い回しをやめる
- 怪しいリンクをクリックしない
- 重要データのバックアップ(クラウドストレージ活用)
- ソフトウェアの自動アップデート有効化
これらは無料または低コストで実施でき、セキュリティを大幅に向上させます。
Q10. この記事で推奨されている対策を全部やらないといけませんか?
A: いいえ、できることから段階的に始めてください。
優先順位の例:
【最優先】今すぐできること
- Googleアカウントのパスキー設定(無料・簡単)
- フィッシングメールへの警戒(意識の問題)
【次のステップ】環境が整えば
- Windows Helloの設定(対応機器があれば)
- 社内でのセキュリティ方針の整備
【長期的に】体制を整える
- 全社的なセキュリティポリシーの策定
- 定期的な研修の実施
完璧を目指す必要はありません。現在より少しでも安全になることが重要です。
さらに詳しく知りたい方へ
- Googleパスキー公式ページ: https://www.google.com/intl/ja/account/about/passkeys/
- FIDO Alliance(日本語): https://fidoalliance.org/?lang=ja
- IPA 情報セキュリティ10大脅威 2025: https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2025.html
- サイバーセキュリティ・情報漏洩ニュース: https://cybersecurity-jp.com/news

執筆:田上恭由(たがみやすゆき)
株式会社ワイコム・パブリッシングシステムズ 代表取締役 上級ウェブ解析士
西南学院大学卒。記者を経て中古車情報誌編集部で、世界初となるデジカメ画像利用の誌面完全自動制作システムを開発。平成8年に創業し、同システムは情報誌「カッチャオ」の成長を支えた。現在はウェブ集客支援へ移行し、構築700サイト・運営支援130社超の実績を持つ。近年は生成AIによる業務改革支援や研修開発に注力。講演・セミナー実績多数。「チームがみポンランニングクラブ」会長。







